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バスキング日記 第4章 ロンドンでの挑戦と同業者たちの罠(その後)

 要領の良い人というのはどこにでもいる。僕は要領が悪い。なぜかというと、要領の良い人から学び、真似をすることをしていないからだと思う。経験もないくせに自分の仕方に固執している限り、僕はバスカーとして成長することはできないのではないか。そんなことを思った。手笛に可能性はあるのだろうか。手笛に必要なのはコツだけだ。両手があって、口があって、息を吹き込める人であれば、手笛を習得することは可能だ。おそらく、太古の昔から手笛を操る人物は存在したのではないだろうか。しかし、日本には手笛業界のようなものは存在しないし、手笛の存在すら知らない人が多い。圧倒的に需要がないのだ。

 

 僕はロンドンでバスカーの洗礼を受けた。自分の実力の無さに打ちひしがれ、考えの甘さに嫌気がさした。僕にはもう時間がなかったが、このままロンドンを去りたくはなかった。このままでは二度とバスキングが出来なくなってしまう。そんな風に感じた。次の瞬間、僕はベッドから起き上がり、外に飛び出していた。

 

  プリムローズヒル。カムデンタウンから西に15分ほど歩いたところにある公園だ。カムデンタウンは人が溢れており賑やかであるが、ここまでくると人はあまりいない。辺りは静かであり、遠くにジョギングや犬の散歩をしている人が少しいるだけだ。公園に遊具はほとんどなく、広い敷地には緑の芝生と木々が立ち並んでいる。僕はアテもなく歩き、ここへたどり着いた。ベンチに座って空を見上げ、大きく深呼吸をする。風が少し冷たいが、心地よかった。僕はカバンからアンプを出し、手笛を吹き始めた。

 

 静かな公園にメロディが響き渡った。もうチップなんてどうでもよかった。ただ無心で手笛を吹いた。自分の吹きやすい曲、吹きたい曲だけを吹いた。しばらく吹いていると、徐々に音が安定しはじめた。手笛はスロースターターなのだ。手が乾燥していると手を組んでも隙間ができ、音がかすれてしまう。しばらく手を組んでいると適度な湿気が発生し、高音域が安定するようになっているのだ。僕はいつの間にか自分の世界に入っていた。

 

 一時間くらい経っただろうか。気が付くと目の前にジョギング中と思われる親子が立っていた。父親と息子のように見える。二人とも長身で短く切った金髪に白い肌の、如何にもイギリス人と言った風貌だ。僕が1曲を吹き終えたタイミングで、父親が話しかけてきた。「Oh, it's funny. How do you do it?」僕はびっくりした。「Thank you. only hand」合っているか分からない英単語を並べ、手を見せながら笑顔で答えた。その後、父親は息子に何か話しかけた後「ごめんよ、今お金を持っていないんだ」と言って去っていった。一瞬の出来事だった。しばらく呆然としていたが、急に嬉しさが込み上げてきた。手笛に興味を持ってもらえた。その事実が僕の胸を温かくしていくのを感じた。

 

 それから僕は日が暮れるまで手笛を奏で続けた。公園に人はほとんどいなかったが、通り過ぎたカップルが少し離れたところで手笛の真似をしているのを見つけたときは、思わず笑みがこぼれた。手笛は聴いている側からするとシュールで大してすごくはない。しかし、可能性は0じゃない。そう思えた。そして何よりも大切なのは、本人が本当に手笛が好きで、楽しそうに演奏しているかどうかだとも感じた。これだけでも伝わるものはかなり違うんじゃないだろうか。この公園で僕は、少し自信を取り戻すことができた。

 

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